1. ikigaiチャートとは〜4つの円で「生きがい」を可視化する
ikigaiチャートとは、以下の4つの問いをそれぞれ円として描き、重なりを探していく自己分析のフレームワークです。
- 好きなこと(What you LOVE):時間を忘れて没頭できること、報酬がなくてもやりたいこと
- 得意なこと(What you are GOOD AT):人より上手くできること、努力が苦にならないこと
- お金になること(What you can be PAID FOR):市場価値があり、報酬が発生すること
- 世の中が求めること(What the world NEEDS):社会や誰かの役に立つこと
4つすべてが重なる中心が「ikigai(生きがい)」、つまり情熱・才能・収入・社会貢献のすべてを満たす働き方です。
「生きがい」はもともと日本語ですが、チャートの原型は2011年にスペインの起業家アンドレス・ススナガ氏が発表したベン図と言われています。その後、2016年に出版された書籍『Ikigai』が世界的ベストセラーとなり、60以上の言語圏に翻訳されて広まりました。海外発のフレームワークが「逆輸入」される形で、日本でもキャリア研修や自己分析に使われるようになっています。
ikigaiチャートの最大の特徴は、「好きなこと」だけでも「稼げること」だけでもなく、4つの視点を同時に満たすバランス点を探すところにあります。転職の場面では「やりたいこと重視」と「条件重視」が対立しがちですが、このチャートを使うと両者を1枚の図で整理できます。
2. 4つの円の重なりが示す4つの状態
ikigaiチャートでは、2つの円が重なる部分にもそれぞれ名前がついています。自分の現状がどこにあるかを知ることで、転職で何を補うべきかが見えてきます。
2.1 情熱(好き×得意)
好きで得意なことに打ち込めている状態です。ただし「お金になること」「世の中が求めること」が欠けると、充実感はあっても収入につながらない、趣味の域にとどまりやすい状態といえます。
2.2 使命(好き×世の中が求めること)
好きなことで社会の役に立てている状態です。「お金になること」が欠けると、やりがいはあるのに経済的な不安がつきまとう働き方になりがちです。NPOやボランティア活動に熱中しつつ生活が苦しい、というケースが典型です。
2.3 天職(得意×お金になること×世の中が求めること)
スキルが評価され、収入も安定し、社会にも必要とされている状態です。一方で「好きなこと」が欠けると、周囲からは順調に見えるのに本人は空虚感を抱えることがあります。「仕事に不満はないはずなのに、なぜかモヤモヤする」という転職相談は、この型が少なくありません。
2.4 専門性(得意×お金になること)
得意なことで安定した収入を得ている状態です。「好き」と「社会への貢献実感」が欠けると、快適だがどこか物足りないと感じやすくなります。年収は上がったのにやりがいを感じられない、というミドル世代の悩みはここに当てはまることが多いです。
このように、ikigaiチャートは「今の仕事の何が満たされていて、何が欠けているのか」を言語化する診断ツールとしても使えます。転職理由を整理する第一歩として非常に有効です。
3. ikigaiチャートの書き方5ステップ
それでは実際にチャートを作ってみましょう。所要時間は初回で60〜90分が目安です。一度で完成させようとせず、数日かけて書き足していく方がうまくいきます。
- ステップ1:4つの円を描く(5分):A4用紙かノートに、重なり合う4つの円を描き、「好き」「得意」「お金になる」「世の中が求める」とラベルをつけます。手書きが面倒な場合は、ExcelやNotionに4項目の表を作るだけでも構いません。
- ステップ2:各円に要素を書き出す(30〜40分):次章の質問リストを使い、各円に最低10個ずつ、思いつくままに書き出します。仕事に関係なさそうなこと(ゲーム、料理、人の相談に乗るなど)も除外せずに書くのがコツです。
- ステップ3:重なりを探す(15分):書き出した要素を見比べ、2つ以上の円に共通するものに印をつけます。「営業経験(得意)」と「人と話すこと(好き)」のように、表現は違っても本質が近いものはセットにします。
- ステップ4:中心に近い要素から仕事を連想する(15分):3つ以上の円に重なった要素を起点に、「この要素を活かせる仕事・職種・働き方は何か」を書き出します。ここではまだ現実性を気にせず、量を出すことを優先します。
- ステップ5:数日置いて見直す(15分):2〜3日後に見返すと、書き漏れや「これは本音ではないな」という項目に気づけます。家族や友人に見せて「あなたはこれも得意だよ」と指摘してもらうと、さらに精度が上がります。
ポイントは、4つの円を「埋めること」ではなく「重なりを見つけること」が目的だと意識することです。要素の数が多いほど重なりの候補も増えるので、ステップ2の書き出しに一番時間をかけましょう。
4. 4つの円を埋める質問リスト〜そのまま使える40問
「書き出せと言われても手が止まる」という方のために、各円につき10問の質問リストを用意しました。答えやすいものから埋めていってください。
4.1 「好きなこと」を掘り起こす質問
- 時間を忘れて没頭してしまうことは?
- お金を払ってでも学びたい・やりたいことは?
- 休日に自然とやってしまうことは?
- 子どもの頃、飽きずに続けていた遊びは?
- 書店で必ず立ち寄るコーナーは?
- SNSや動画でつい見てしまうジャンルは?
- 人と話していて熱が入る話題は?
- 仕事の中で「この作業だけは苦にならない」ものは?
- もし1年間、生活費の心配がなかったら何をする?
- 憧れている人は誰で、その人の何に惹かれる?
4.2 「得意なこと」を掘り起こす質問
- 人からよく褒められること・頼まれることは?
- 他の人が苦労しているのに、自分は簡単にできることは?
- これまでの仕事で成果が出たことは?(数字で書けるとベスト)
- 初対面の人に驚かれるスキルや知識は?
- 努力を努力と感じずに続けられたことは?
- チームの中で自然と引き受けている役割は?
- 過去に表彰・評価された経験は?
- 友人から相談されるのはどんなテーマ?
- 短期間で人より早く習得できたことは?
- 「あなたにお願いしたい」と指名された経験は?
4.3 「お金になること」を掘り起こす質問
- 今の職種・スキルの求人は転職市場にどれくらいある?
- 自分のスキルで過去に給料・報酬を得たものは?
- 資格・免許で仕事に直結しているものは?
- 今後5〜10年で需要が伸びそうな自分のスキルは?
- 副業にできそうな経験・知識は?
- 同じスキルを持つ人の年収相場はいくら?
- 会社の看板がなくても売れるスキルは?
- スカウトやオファーをもらったことのある分野は?
- 「それ、お金取れるよ」と言われたことは?
- 学び直せば収入につながりそうな分野は?
4.4 「世の中が求めること」を掘り起こす質問
- 自分の仕事は誰のどんな困りごとを解決している?
- ニュースを見て「なんとかしたい」と感じる社会課題は?
- 地元や地域に足りていないと感じるものは?
- 人手不足が深刻だと感じる業界・職種は?
- 身近な人に感謝された経験は?
- 10年後も確実に必要とされ続ける仕事は?
- 自分の業界の知識で、困っている人を助けられる場面は?
- 「ありがとう」と言われて一番うれしかった仕事は?
- 技術の進歩で新しく生まれているニーズは?
- 自分が顧客として「もっとこうだったら」と思うサービスは?
全部に答える必要はありません。40問中20問も答えれば、各円に10個ずつの要素は十分に集まります。1人で書き出すのが難しい場合は、AIチャットに質問を1問ずつ出してもらいながら対話形式で進めるのも効果的です。
関連記事:転職の価値観診断〜仕事で大切にしたいことの見つけ方
5. 記入例:30代営業職Aさんのikigaiチャート
イメージをつかんでいただくために、メーカー営業8年目・32歳のAさんの記入例を紹介します。
- 好きなこと:人の相談に乗る、プレゼン資料づくり、新しいツールを試す、地元のまちづくりイベント
- 得意なこと:初対面の人と関係を築く、複雑な内容を分かりやすく説明する、社内調整(後輩指導で表彰経験あり)
- お金になること:法人営業経験8年、提案書作成スキル、業界知識、マネジメント経験1年
- 世の中が求めること:中小企業のデジタル化支援、地方の人材不足解消、分かりやすい情報発信
重なりを探すと、「人の相談に乗る(好き)」「関係構築・分かりやすく説明(得意)」「法人営業経験(お金になる)」「中小企業支援(世の中が求める)」の4つが中心で交わることが見えてきました。
ここからAさんが連想した仕事は、「中小企業向けITツールのカスタマーサクセス」「地方企業専門の採用支援・人材コンサルタント」「商工会議所などの経営支援員」の3つです。単に「営業経験を活かせる仕事」と考えていたときには出てこなかった選択肢が、4つの円を重ねることで具体的な職種名まで絞り込めたのがポイントです。
実際の転職活動では、このように連想した仕事を求人サイトで検索し、実在する求人の仕事内容・年収と突き合わせて現実性を確認していきます。
6. ikigaiチャートを転職活動に活かす3つの方法
チャートは書いて終わりでは意味がありません。転職活動の各場面で次のように活用しましょう。
6.1 転職の軸をつくる
4つの円のうち、今の仕事で満たされていない円が、あなたが転職で補うべきものです。たとえば「専門性(得意×お金)」の状態にいる人なら、転職の軸は「好きな分野であること」「社会貢献を実感できること」になります。軸が明確になれば、求人の取捨選択に迷いがなくなり、応募数を絞って選考対策に時間をかけられます。
関連記事:Will/Can/Mustで転職軸を決める方法と例文
6.2 志望動機に説得力を持たせる
ikigaiチャートで整理した内容は、そのまま志望動機の素材になります。「好き(関心)→得意(再現性のある強み)→世の中が求めること(貴社の事業との接点)」の順に語ると、感情論でも条件目当てでもない、一貫性のある志望動機が組み立てられます。面接で「なぜこの業界なのか」「なぜ当社なのか」を深掘りされても、チャートに立ち返れば答えがぶれません。
6.3 内定先を比較する判断基準にする
複数の内定で迷ったときは、各社を4つの円で採点してみましょう。それぞれ5点満点で「好き」「得意が活きる」「報酬・市場価値」「社会への貢献実感」を採点し、合計点と欠けている円を見比べます。合計点が同じでも、どの円が欠けているかで入社後の満足度は大きく変わります。自分がどの円の欠落に耐えられないタイプかを、現職の不満から逆算して判断するのがコツです。
7. ikigaiチャートの注意点と限界
便利なフレームワークですが、使い方を誤ると逆効果になります。3つの注意点を押さえておきましょう。
7.1 最初から4つすべて重なる仕事を探さない
4つの円が完全に重なる仕事に、転職1回でたどり着ける人はまれです。現実的には、「今回の転職では欠けている円を1つ補う」と考える方がうまくいきます。たとえばまず「得意×お金」で足場を固め、社内異動や副業で「好き」を育て、数年かけて中心に近づいていく——ikigaiは一度の決断ではなく、キャリアを通じて追い続けるものと捉えましょう。
7.2 「お金になること」の検証を怠らない
4つの円のうち「お金になること」だけは、自分の内面ではなく市場が決める要素です。思い込みで書かず、求人サイトでの求人数、想定年収、必要スキルを必ず確認してください。ここの検証が甘いと、「好きで得意だが求人が極端に少ない仕事」に狙いを定めてしまい、転職活動が長期化する原因になります。
7.3 1人で完結させない
自分で書いたチャートには、どうしても自己認識の偏りが入ります。特に「得意なこと」は自分では当たり前すぎて気づけないことが多いため、同僚や友人など3人以上に「自分の強みは何だと思うか」を聞いてみることをおすすめします。他者の視点を入れることで、チャートの精度は大きく向上します。
8. まとめ
この記事では、ikigaiチャートを使った適職の見つけ方を解説しました。
ikigaiチャートは「好きなこと」「得意なこと」「お金になること」「世の中が求めること」の4つの円を重ね、その中心にある働き方を探すフレームワークです。書き方は、4つの円を描く→質問リストで各円に10個ずつ書き出す→重なりを探す→仕事を連想する→数日置いて見直す、の5ステップ。転職活動では、転職の軸づくり、志望動機の組み立て、内定先の比較にそのまま活用できます。
大切なのは、4つすべてが重なる完璧な仕事を一度に探すのではなく、今の自分に欠けている円を知り、転職でどれを補うかを決めることです。まずは紙とペンを用意して、ステップ1の円を描くところから始めてみてください。
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