1. Will/Can/Mustとは〜リクルート発の転職フレームワーク
Will/Can/Mustは、リクルートが社員のキャリア面談で長年使用してきた自己分析フレームワークです。同社の人事制度の中核に位置づけられ、社員研修・目標設定・キャリア相談で標準的に活用されてきました。リクルートマネジメントソリューションズの2024年調査では、人事評価制度にWill/Can/Mustを取り入れている企業が大手企業の約38%に達し、転職市場でも急速に浸透している考え方です。
1.1 3つの要素の定義
- Will(ウィル):自分が「やりたい」「実現したい」と思う仕事・価値観・将来像
- Can(キャン):自分が「できる」「強みを発揮できる」スキル・経験・知識
- Must(マスト):会社や市場から「やるべき」「求められている」役割・期待
多くの自己分析フレームワークが「Will(やりたい)」だけ、または「Can(強み)」だけにフォーカスする中、Will/Can/Mustは 個人の意思(Will)と能力(Can)と市場の需要(Must)を同時に扱う 点が決定的に違います。
1.2 なぜ転職活動でこのフレームワークが効くのか
転職で失敗する人の典型は「Willに偏った人」と「Mustに流された人」の2タイプです。Willだけで決めると「やりたいけど市場ニーズが無い」職種を選んでしまい、Mustだけで決めると「求められるから受けたけど続かない」状態になります。Will/Can/Mustは3軸を同時に検討させることで、こうしたミスマッチを構造的に防ぎます。
1.3 他フレームワークとの違い
ジョブ・カードは「Can中心」、ジョハリの窓は「自己と他者の認知差」、キャリアアンカーは「価値観中心」と、それぞれフォーカスが異なります。Will/Can/Mustは「3軸の交差点」を扱うため、特に転職という現実的な意思決定の場面で機能します。
2. 「Will(やりたい)」を発掘する5つの問い
Willは最も曖昧になりやすい要素です。「やりたいことが分からない」と感じる人は次の5つの問いに順番に答えてみてください。
2.1 過去に時間を忘れて没頭できたことは何か
仕事・趣味・学生時代いずれでも構いません。「気づいたら数時間経っていた」経験は、Willの強い手がかりです。たとえば「顧客の課題を分析していた時」「資料を作っていた時」「データを分析していた時」など、具体的なシーンを5つ書き出します。
2.2 他人にお金を払ってでもやりたいことは何か
「報酬がなくてもやりたい」「学費を払ってでも学びたい」というほど純粋に惹かれることを探します。資格取得の費用を自分で出した経験、社外のセミナーに自費参加した経験などが該当します。
2.3 ニュースを見て一番心が動くテーマは何か
日常的に関心を持っているテーマには、無意識のWillが宿っています。技術革新、社会課題、特定の業界動向など、繰り返し気になる話題が見つかれば、それがWillの輪郭です。
2.4 「もし失敗が許されるなら」何に挑戦したいか
「失敗の恐怖」を取り除いた仮想質問です。本当のWillは、安全性の制約で言語化されないことが多く、この問いで初めて表に出てくることがあります。
2.5 10年後、誰にどう感謝されていたいか
10年後の自分が誰から「ありがとう」と言われたいかを想像します。顧客、部下、家族、業界全体――対象が見えれば、Willの方向性が定まります。
3. 「Can(できる)」を棚卸す3つの視点
Canは「主観的な得意」ではなく「他者から評価される強み」で考えるのが重要です。自分が「これくらい誰でもできる」と思っていることが、市場では希少なCanであることが頻繁にあります。
3.1 視点1:事実ベースの棚卸し(実績)
数字で語れる実績を「業務領域 × 成果」のマトリクスで整理します。「営業×新規開拓で15社獲得」「企画×新規事業立ち上げで初年度売上3,000万円」など、具体性が高いほどCanの解像度が上がります。職務経歴書の数字で実績を伝える書き方を参考に、定量化の精度を上げましょう。
3.2 視点2:他者評価ベースの棚卸し
過去5年で受けた称賛・評価・昇格理由を書き出します。上司の人事評価コメント、同僚からの言葉、顧客からの感謝メールなどが材料です。他者が言語化してくれた強みは、自分では見えない盲点であることが多く、Canの最重要素材になります。
3.3 視点3:再現性ベースの棚卸し
成功体験のうち「1回限り」と「複数回繰り返せた」ものを分けます。複数回成果を出せたパターンが、転職先でも再現できる「真のCan」です。1度きりの成功は運の要素が大きく、Canとしては弱いと判断します。
4. 「Must(やるべき・求められる)」を見極める方法
Mustは「現職で求められている役割」と「転職市場で求められている人材像」の2層で考えます。
4.1 現職のMustを明確化する
今の会社・部署・職位で求められている役割を「役割定義」「KPI」「上司からの期待」の3軸で整理します。これは現職での評価向上に直結し、転職せず昇格する選択肢も同時に検討できる材料です。
4.2 転職市場のMustを調べる
応募候補となる職種の求人票を10件以上集め、共通して書かれている「求める人物像」「必須条件」「歓迎条件」を抽出します。これが市場のMustです。dodaやリクルートエージェントの「職種別年収」ページに掲載された求人スキル分析を参考にすると効率的です。
4.3 Mustと自分のCanのギャップを測定する
市場のMustリストに対して、自分のCanがどれだけ満たせているかを採点します。100点満点で60-80点なら現実的な転職レンジ、80点超なら年収アップ可能、60点未満なら追加スキル習得が必要です。
5. 3軸の交差点で「適職マトリクス」を描く
Will/Can/Mustが揃ったら、3軸を組み合わせた「適職マトリクス」で交差領域を可視化します。これがWill/Can/Mustフレームワーク独自の使い方です。
5.1 マトリクスの作り方
縦軸にCan、横軸にMustを取り、それぞれ「高・中・低」の3段階で区切ります。9マスのマトリクスに、自分のWillを書き込んだ業務領域・職種をプロット。「Can高・Must高」の右上が転職第一候補ゾーン、「Can中・Must高」が成長余地ゾーン、「Can高・Must低」が転用可能ゾーンとなります。
5.2 Will円を重ねて「適職」を絞り込む
マトリクスにWillを円で重ねます。「Can高・Must高 ∩ Will」の領域に該当する職種が、3軸すべてを満たす最適解です。多くの場合、3軸完全一致は2〜3職種に絞られ、転職の意思決定が一気にスピードアップします。
5.3 マトリクスを応募ポジションごとに作る
1つのマトリクスで全て決めようとせず、応募候補のポジションごとに別のマトリクスを作るのがコツです。「営業マネージャー向けマトリクス」「事業企画向けマトリクス」など、ポジション特性に合わせて評価することで、応募先ごとの自己PRが自動で見えてきます。
6. Will/Can/Mustが一致しない時の優先順位の付け方
現実には3軸が完全一致することは稀で、何かを優先せざるを得ません。年代・ライフステージ別の優先順位を提示します。
6.1 20代:Will優先で挑戦する
20代はCanが浅く、Mustも会社依存のため、Willを優先するのが基本戦略です。「やりたいこと」に思い切って挑戦し、その過程でCanを増やしていくのが王道。20代転職の自己分析と合わせて読むと、20代特有の優先順位が見えます。
6.2 30代:Can優先で年収レンジを上げる
30代はCanが蓄積され、Mustも市場で測定可能になります。「強みを最大限に活かす職種」を選ぶことで、年収アップと専門性深化を両立できます。Willは「Canの延長線上にあるWill」に絞ると現実解が見えやすくなります。
6.3 40-50代:Must優先で求められる場所を選ぶ
40-50代は市場のMustが厳しくなり、選択肢が絞られます。Mustに合致するポジションの中から、CanとWillが満たせるものを選ぶ順番に変わります。40代・50代の自己分析と組み合わせて使うのが効果的です。
7. 転職軸・自己PR・志望動機への活かし方
Will/Can/Mustの分析結果は、応募書類と面接対応に直接転換できます。ここではテンプレートと例文を提示します。
7.1 転職軸への変換
「Will(やりたい)×Can(活かせる)×Must(求められる)」の交差点を1文に凝縮します。例:「データ分析を活かして(Can)、製造業のDX推進を担い(Must)、業界の生産性向上に貢献したい(Will)」。Will/Can/Mustが揃った転職軸は、面接でブレずに語れる強い軸になります。
7.2 自己PRへの応用例
自己PRは「Can(強み)→ 具体エピソード → Must(求められる役割への適合)→ Will(貢献の方向性)」の順で構成します。例:「私の強みは新規顧客開拓力です(Can)。前職では3年間で新規28社を獲得しました。貴社が掲げるシェア拡大方針(Must)に対して、この経験を活かし即戦力として貢献し、3年以内に新規事業の立ち上げに挑戦したい(Will)と考えています」。
7.3 志望動機への応用例
志望動機は「Will → Must → Can」の順で組み立てるのが定石です。例:「キャリアを通じて、テクノロジーで地方の課題を解決したいと考えてきました(Will)。貴社は地方DX領域で業界トップの実績があり、新規事業の責任者ポジションを募集されています(Must)。私はこれまでITコンサルとして地方自治体5案件を担当し、年間1.2億円の業務改善を実現した経験があります(Can)。この経験で貴社の新規事業立ち上げに貢献できます」。3軸が揃った志望動機は、採用担当が「採るべき理由」を即座に理解できます。
7.4 1枚にまとめる Will/Can/Mustシートのテンプレート
分析結果はA4用紙1枚にまとめると、面接前の最終確認に使えます。推奨レイアウトは「上段:Will(5項目)」「中段:Can(事実・他者評価・再現性の3列)」「下段:Must(現職・市場の2列)」の3段構成。中央に「3軸の交差点キーワード3つ」をハイライトし、その下に「転職軸1行」「自己PR3行」「志望動機3行」を記入できる欄を設けます。
このシートは応募ポジションごとに1枚作成し、面接前に5分間眺めるだけで自分のストーリーが瞬時に再構築できます。複数応募が並行する転職活動で特に威力を発揮するワーキングシートです。ChatGPT自己分析プロンプト10選〜適職診断・強み発見と組み合わせれば、AIに3軸の整理を手伝ってもらいながらシートを完成できます。
8. まとめ
Will/Can/Mustは、転職活動で必要な「やりたい」「できる」「求められる」を1つのフレームワークで統合的に扱える強力な自己分析手法です。最後にチェックリストでまとめます。
- 3要素の理解:Will(やりたい)/Can(できる)/Must(求められる)の3軸を区別する
- Willの発掘:5つの問い(没頭体験・お金を払ってでも・心が動くテーマ・失敗許可・10年後の感謝)
- Canの棚卸し:事実・他者評価・再現性の3視点で実績を整理する
- Mustの見極め:現職と市場の2層で求められる役割を分解する
- 適職マトリクス:Can×Mustの9マスにWillを重ねて交差点を特定する
- 優先順位:年代別の優先軸(20代Will・30代Can・40-50代Must)
- 実践化:転職軸・自己PR・志望動機への3軸テンプレート活用
Will/Can/Mustは1回で完結するワークではなく、転職活動の節目ごとに見直すことで精度が上がります。応募ポジションが変わるたび、マトリクスを再構築する習慣をつけてください。
『転職どうでしょう』では、自己分析の進め方から応募書類の添削まで転職活動全般をサポートしています。「Will/Can/Mustが一致しない」「適職マトリクスで判断に迷う」など、転職に関するお悩みがありましたら、お気軽に転職相談フォームからご相談ください。