1. 退職届・退職願・辞表〜3つの書類の違い一覧
まず3つの書類の違いを一覧で確認しましょう。
1.1 比較表で押さえる違い
- 退職願:退職の意思を会社に「お願い」する書類。会社が承認してはじめて退職成立。承認前なら撤回可能
- 退職届:退職の意思を会社に「通告」する書類。提出時点で退職の意思表示が成立。原則撤回不可
- 辞表:役員・公務員が役職を辞する際の書類。一般社員は通常使わない
1.2 法的根拠〜民法627条との関係
退職に関する基本ルールは民法第627条第1項に定められています。「期間の定めのない雇用契約は、いつでも解約の申入れができる。雇用は、解約の申入れの日から2週間を経過することによって終了する」とされており、つまり退職届を提出してから2週間で退職は法律上成立します。
ただし、就業規則で「退職の申出は1ヶ月前まで」と定められているケースが多く、円満退職を目指すなら就業規則に従うのが基本です。
1.3 どちらを使うべきか〜ケース別の判断
- 円満退職を目指す場合:先に退職願を提出 → 上司の承認後に退職届を出す(または願のみで完結)
- 退職を強い意志で表明する場合:最初から退職届を提出
- 引き止めが激しい場合:退職届を内容証明郵便で提出(最終手段)
2. 退職願の書き方〜書式と記入ルール
退職願は「お願い」の書類のため、文末は「退職いたしたく、ここにお願い申し上げます」と記載します。
2.1 用紙・筆記具のルール
- 用紙:白色のB5またはA4の便箋(罫線あり可、ビジネス用)
- 筆記具:黒のボールペンまたは万年筆。消えるボールペンは不可
- パソコン作成:本文のみパソコンで作成し、署名のみ手書きでも可(ただし手書きが望ましい)
- 印鑑:認印で可、シャチハタは不可
2.2 記載項目(縦書き・上から順)
- 表題:「退職願」(中央上部、やや大きめの字)
- 書き出し:「私儀(わたくしぎ)」または「私事」(行末右寄せ)
- 本文:「この度、一身上の都合により、勝手ながら20XX年X月X日をもって退職いたしたく、ここにお願い申し上げます。」
- 提出日付:書類を提出する日付(左寄せ)
- 所属・氏名:所属部署とフルネーム(氏名の下に押印)
- 宛名:会社名と代表取締役の役職・氏名(敬称は「殿」または「様」)
2.3 退職願のテンプレート全文
「退職願
私儀
この度、一身上の都合により、勝手ながら来る20XX年X月X日をもって退職いたしたく、ここにお願い申し上げます。
20XX年X月X日
○○部 ×××× 印
株式会社△△
代表取締役社長 ○○○○殿」
3. 退職届の書き方〜書式と記入ルール
退職届は「通告」の書類のため、文末は「退職いたします」と断定形で記載します。
3.1 退職願との書式の違い
- 表題:「退職届」(退職願ではない)
- 文末:「退職いたします」(願ではない)
- その他:用紙・筆記具・縦書きルール・宛名は退職願と同じ
3.2 退職届のテンプレート全文
「退職届
私儀
この度、一身上の都合により、来る20XX年X月X日をもって退職いたします。
20XX年X月X日
○○部 ×××× 印
株式会社△△
代表取締役社長 ○○○○殿」
3.3 「一身上の都合」と書くのが基本
退職理由は「一身上の都合」と書くのが原則です。具体的な理由(人間関係・給与など)を書くと、円満退職が難しくなる可能性があります。ただし会社都合退職(リストラ・倒産など)の場合は「会社都合により」と明記します。これは失業保険の受給条件にも関わるため重要です。
4. 提出方法と封筒の書き方
書類を作成したら、封筒に入れて提出します。封筒の選び方と書き方にもマナーがあります。
4.1 封筒の選び方
- 色:白の二重封筒(透けない)
- サイズ:B5の用紙なら「長形4号」、A4の用紙なら「長形3号」
- 郵便番号枠:枠なしを選ぶ(手渡しのため)
4.2 封筒の書き方
- 表面中央:「退職届」または「退職願」と縦書き
- 裏面左下:所属部署とフルネーム
- のり付け:書類を三つ折り(または四つ折り)にして封入。封は「〆」と書く
4.3 提出のタイミングと相手
- 退職願:直属の上司に手渡し(必ず2人きりで会話できる場所で)
- 退職届:上司の承認を得た後、直属の上司または人事部に手渡し
- 提出時の言葉:「お時間いただきありがとうございます。退職届を持参いたしました。よろしくお願いいたします」
関連記事:円満退職の進め方〜上司への切り出し方から引き継ぎ・最終出社日まで
5. 提出までのスケジュールと流れ
5.1 円満退職を目指す場合の標準フロー
- 退職の2〜3ヶ月前:転職活動を本格化、内定獲得
- 退職の1.5ヶ月前:直属の上司に口頭で退職の意思を伝える
- 退職の1ヶ月前:退職願を提出、上司・人事と退職日を確定
- 退職の3週間前:退職届を提出(または退職願のみで完結)
- 退職の2週間前:業務引き継ぎ開始、関係者へ挨拶
- 退職日:最終出社、貸与物の返却、必要書類の受け取り
5.2 退職時に受け取る・返却する書類
退職時には以下の書類のやりとりが発生します。
- 会社から受け取るもの:離職票、雇用保険被保険者証、源泉徴収票、年金手帳(預けていた場合)、健康保険資格喪失証明書
- 会社に返却するもの:健康保険証、社員証、名刺、貸与PC・スマホ、制服、書類類、通勤定期券
6. 受理されない・引き止められた場合の対処
退職届を提出しても、上司が受け取らないケースや、強い引き止めに遭うケースがあります。
6.1 受け取りを拒否された場合
退職届の受理は会社の義務ではなく、形式的な手続きに過ぎません。提出した時点で意思表示は成立しています。それでも揉める場合は、以下の対処法があります。
- 内容証明郵便で送付:郵便局で内容証明+配達証明付きで送る。法的に「いつ・誰が・何を送ったか」が証明される
- 労働基準監督署に相談:明らかな違法行為(退職届の破棄、脅迫など)があれば相談
- 退職代行サービスの利用:労働組合系または弁護士法人系のサービスを利用(費用2.5〜5万円)
6.2 引き止めへの対応
「給与アップ」「ポジション昇格」を提示されることがありますが、安易に翻意すると「次の同僚に話が広がる」「数年後に再び転職を考える」ケースが多いです。一度決意した転職は最後までやり遂げる方が、長期的なキャリア観点では良い選択になりやすいです。
引き止めへの返答例:「ご評価いただきありがたく存じます。しかし○○の領域に挑戦したいという気持ちが強く、新しい環境で力をつけたいと考えております。これまでお世話になった分、最後まで責任を持って引き継ぎを行います。」
6.3 退職届の撤回はできるのか
退職届は原則として撤回不可です。一方、退職願は会社が承認する前なら撤回可能です。「念のため取り下げたい」という可能性が少しでもあれば、退職届ではなく退職願を選ぶのが安全です。
7. よくあるNG例と注意点
- NG1:消えるボールペンで書く → 内容を改ざんできる文書は無効になる可能性
- NG2:日付を提出日と異なる日にする → 提出した日付を書く
- NG3:退職理由を具体的に書く → 「一身上の都合」が原則
- NG4:宛名を直属の上司にする → 会社代表者宛に書く
- NG5:上司不在の時に置いていく → 必ず手渡しで提出する
- NG6:退職日を確定させずに提出する → 上司との合意の上で日付を確定
- NG7:シャチハタで押印 → 認印(朱肉を使うもの)を使用
- NG8:会社都合なのに「一身上の都合」と書く → 失業保険の受給条件で不利になる
- NG9:複数枚に分けて書く → 必ず1枚にまとめる
- NG10:訂正印で修正する → 書き間違えたら新しい用紙で書き直す
8. 退職届を提出した後にやること〜退職日までの流れ
退職届を出して終わりではありません。退職日までに行うべきことを時系列で整理します。
8.1 業務の引き継ぎ準備(提出後〜退職2週間前)
退職届の受理直後から、引き継ぎ計画を作ります。引き継ぎ書は以下の項目を含めます。
- 担当業務一覧:日次・週次・月次タスクの分類
- 進行中プロジェクト:進捗状況、次のアクション、関係者連絡先
- ファイル所在:共有ドライブのパス、各種ID/権限
- 取引先情報:担当者名、過去のやりとり履歴、注意事項
- FAQ:トラブル発生時の対処、過去の問題事例
厚生労働省の調査によると、退職時のトラブルの約42%が引き継ぎ不備に起因しています。後任者が困らないレベルまで詳細に書き残すことが、円満退職の最大のポイントです。
8.2 取引先・関係者への挨拶(退職1週間前〜退職日)
社外関係者には、退職日の1〜2週間前に後任者の紹介を兼ねた挨拶メールを送ります。社内には最終出社日に挨拶メールを一斉送信するのが一般的です。
社外向けメールテンプレート例:「平素より大変お世話になっております。私事ではございますが、20XX年X月X日をもって株式会社○○を退職することとなりました。後任は同じ部署の△△が担当いたします。在職中は格別のご厚情を賜り、誠にありがとうございました。」
8.3 有給休暇の消化計画
残っている有給を退職前にすべて消化するのが理想です。引き継ぎとのバランスを考え、退職届提出時に上司と消化計画を合意しておきましょう。労働基準法では有給取得は労働者の権利であり、会社は時季変更権を持つものの、退職日以降への変更はできません。
8.4 健康保険・年金の手続き
退職日翌日から健康保険の資格を失います。次の入社日が2週間以上空く場合は、任意継続・国民健康保険・家族の扶養のいずれかを選びます。
関連記事:退職後の健康保険〜任意継続と国保の選び方
9. 退職届をめぐるよくある質問(FAQ)
9.1 「退職願は手書きでないとダメ?」
法律的にはパソコン作成でも問題ありません。ただし日本の慣習として、上司への手渡しの場面では手書きが好まれる傾向があります。心配なら本文をパソコン作成し、署名のみ手書きで対応するのが折衷案です。
9.2 「内容証明郵便で送る場合の費用は?」
内容証明郵便は1通あたり約1,500円(基本料金84円+内容証明料480円+書留料480円+配達証明料350円)です。揉めそうな場合や上司が受け取らない場合に有効な手段で、「いつ・誰が・何を送ったか」が法的に証明されます。
9.3 「退職代行サービスは利用してもいい?」
パワハラやメンタル不調などで自分から伝えるのが困難な場合は、選択肢として有効です。費用は2.5〜5万円が相場で、労働組合系または弁護士法人系を選ぶのが安全です(民間業者は法的代理権がないため未払賃金請求などには対応できません)。
9.4 「退職代行を使うと転職に不利?」
応募先企業が退職代行の利用を知る機会は限定的なため、直接的な不利益はほぼありません。ただし面接で退職理由を聞かれた際に正直に話せる準備はしておくとよいでしょう。例えば「メンタル不調で前職に直接退職を伝えるのが難しく、第三者を介して進めました」と、無理に隠さず説明できる準備をしておくと、誠実な印象を与えられます。
10. まとめ
この記事では、退職届・退職願・辞表の違い、書式と記入ルール、提出方法と封筒の書き方、引き止め時の対処、退職届提出後の流れ、FAQまで網羅的に解説しました。
最も大事なポイントは、退職願は撤回可能・退職届は撤回不可という法的効力の違いを理解することです。円満退職を目指すなら、まず退職願を提出して上司の承認を得るのが基本フローです。一方、強い意思を示したい場合や引き止めが厳しい場合は、最初から退職届を提出する選択もあります。
書式は縦書き・「一身上の都合」・「私儀」など細かなマナーがありますが、テンプレートをそのまま使えば失敗しません。封筒の選び方や提出のタイミングも合わせて押さえれば、社会人としてのマナーは十分です。
退職に関する手続きは煩雑で、書類の書き方ひとつで印象が左右されます。一方で正しい手順を踏めば、退職届の提出から退職日まで2週間〜1ヶ月程度で滞りなく進められます。退職を検討している方は、まずは退職願の書式を準備したうえで、上司との面談に臨むのがおすすめです。
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