1. 結論|住宅ローンと転職の順番は3つの型に分かれる

 住宅ローンと転職の関係は、どちらを先にするかで3つの型に分かれます。まず自分がどの型にあたるかを確認してください。

順番 審査への影響 おすすめ度
A型 現職のままローンを組み、融資実行後に転職 ほぼなし ★★★★
B型 転職してから1年以上あけてローンを組む 小さい ★★★★
C型 審査中・融資実行前に転職 否決・再審査のリスク大 ×

 避けるべきなのはC型です。事前審査に通っていても、融資実行までに勤務先が変われば審査はやり直しになります。物件の引き渡し日が迫っている状態でこれが起きると、契約の解除や手付金の放棄といった深刻な事態に発展しかねません。

 一方、A型とB型はどちらも現実的な選択肢です。住宅の購入時期が1年以内に決まっているならA型、転職を優先したいならB型を選び、購入計画を後ろにずらすのが基本の考え方になります。

2. なぜ転職が不利になるのか|審査で見られている項目

 そもそも金融機関は住宅ローンの審査で何を見ているのでしょうか。国土交通省が毎年実施している「民間住宅ローンの実態に関する調査」では、勤続年数を審査項目としている金融機関は9割を超えています。年齢・健康状態・年収・担保評価と並ぶ、基本項目のひとつという位置づけです。

2.1 勤続年数は「収入の安定性」の代理指標

 金融機関が勤続年数を見るのは、あなたの人柄を評価したいからではありません。最長35年にわたって返済が続くかどうかを、収入の継続性から判断するためです。

 勤続年数が短いと、次の2点が確認できなくなります。

  • 年収の実績がない:源泉徴収票が1年分そろわないため、年収を「見込み」で計算するしかない
  • 定着の実績がない:試用期間中や入社直後は、本人の意思と関係なく雇用が終わる可能性が残る

2.2 転職直後は「年収が下がったように見える」

 見落とされがちなのが年収の計算方法です。転職した年の源泉徴収票は、前職の分と新しい勤務先の分に分かれます。年の途中で転職すると、新しい勤務先が発行する源泉徴収票の金額は数か月分しか反映されていないため、そのままでは年収が大幅に下がったように見えてしまいます。

 この点を補うには、前職の源泉徴収票を合算して提出したり、後述する「見込み年収」の計算方法を使ったりする必要があります。

 関連記事:転職時の確定申告〜年末調整との違いと手続き

3. 転職前に組む場合|内定が出た瞬間から注意が必要

 「今の会社にいるうちにローンを組んでしまおう」という判断は合理的です。ただし、内定が出た時点から融資実行までの期間が最も危険だという点は必ず押さえてください。

3.1 事前審査に通っても本審査・融資実行で覆る

 住宅ローンの流れは「事前審査 → 売買契約 → 本審査 → 金銭消費貸借契約 → 融資実行」と進みます。事前審査から融資実行まで、通常は2〜4か月かかります。

 この間に転職すると、金融機関は審査の前提が変わったと判断します。実務上は次のような対応になります。

  • 審査のやり直し:新しい勤務先の情報で再度審査を受ける
  • 融資額の減額:年収が見込みベースになるため借入可能額が下がる
  • 否決:勤続年数の要件を満たさず、そもそも申込条件から外れる

3.2 黙って転職するのは避ける

 「伝えなければ分からない」と考えるのは危険です。融資実行の前後には勤務先への在籍確認や健康保険証の提示を求められることが一般的で、勤務先の変更はほぼ確実に把握されます。

 仮に申告せずに融資が実行された場合、契約書に記載した申告内容と事実が食い違うことになり、金銭消費貸借契約の規定によっては一括返済を求められる可能性があります。転職が決まったら、その時点で金融機関か不動産会社の担当者に必ず相談してください。

3.3 A型を選ぶなら逆算の起点は融資実行日

 A型を選ぶ場合、逆算の起点は「入社日」ではなく融資実行日です。退職交渉を始めるのも、退職届を出すのも、融資実行が終わってからにするのが安全です。転職活動そのものは進めて構いませんが、内定承諾と入社日の設定は融資実行日以降に置くよう調整しましょう。

 関連記事:転職の内定後にやること〜入社日までの準備リスト

4. 転職後に組む場合|金融機関ごとの勤続年数要件

 転職を先にした場合、次はどれくらい待てばよいかが問題になります。勤続年数の要件は金融機関によって差が大きく、ここを知っているかどうかで選択肢の幅が変わります。

金融機関のタイプ 勤続年数の目安 転職者への特徴
【フラット35】 要件なし 勤続年数の下限を定めていない。月収を12倍した見込み年収で申し込める場合がある
地方銀行・信用金庫 1年以上が中心 地域の事情をふまえた個別判断をしやすい。同業種への転職には比較的柔軟
都市銀行 1年以上〜3年以上 商品によって基準が異なる。転職理由の説明を求められることが多い
ネット銀行 1年以上が中心 金利は低いが審査は画一的。基準を外れると交渉の余地が小さい

 安全圏として覚えておきたいのは「転職後1年(源泉徴収票が1年分そろってから)」という線です。1年経てば新しい勤務先での年収が実額で確定し、多くの金融機関の申込条件を満たせます。

4.1 1年待てない場合の3つの選択肢

 どうしても購入時期を動かせない場合は、次の3つを検討してください。

  1. 【フラット35】を軸に組み立てる:勤続年数の要件がないため、転職直後でも土俵に乗れる可能性がある
  2. 配偶者を主債務者にする:勤続年数の長い側が借りる形に変える
  3. 頭金を厚くする:借入額を下げれば返済負担率が下がり、審査上の見え方が改善する

4.2 転職後に必要になる追加書類

 勤続1年未満で申し込む場合、通常の書類に加えて次のものを求められるのが一般的です。事前にそろえておくと手続きが止まりません。

  • 前職の源泉徴収票(直近1〜2年分)
  • 直近3か月分の給与明細(見込み年収の算定に使用)
  • 雇用契約書または労働条件通知書(雇用形態・給与額の証明)
  • 内定通知書・採用証明書(入社日の確認)
  • 転職理由書(金融機関によっては求められる)

 特に労働条件通知書は、基本給と各種手当の内訳が審査に直結します。入社時に必ず受け取り、紛失しないよう保管してください。

 関連記事:労働条件通知書の見方〜入社前の確認ポイント

5. 不利になりにくい転職・不利になりやすい転職

 同じ「転職1年未満」でも、審査での見られ方は転職の中身によって変わります。金融機関が納得しやすい転職と、そうでない転職の違いを整理します。

不利になりにくい転職 不利になりやすい転職
同業種・同職種でのキャリアアップ まったくの異業種・未経験職種への転向
年収が上がる転職 年収が下がる転職
正社員から正社員 正社員から契約社員・業務委託・フリーランス
資格が必要な専門職(医療・士業・技術職など) 歩合給・インセンティブの比率が高い職種
グループ会社内の転籍・出向 短期間での転職を繰り返している

 特に注意したいのが雇用形態の変更です。正社員から業務委託やフリーランスになると、金融機関の分類上は「給与所得者」から「自営業者」に変わります。自営業者は原則として直近2〜3年分の確定申告書が必要になるため、独立直後は申込資格そのものを満たせません。

 また、歩合給の比率が高い職種では、基本給部分だけを年収として計算されることがあります。年収700万円のうち基本給が300万円という構成だと、借入可能額が300万円ベースで算出されるおそれがあります。求人票の給与欄が「月給20万円+歩合」のような形になっている場合は、固定部分がいくらかを必ず確認してください。

5.1 試用期間中の申し込みは避ける

 試用期間中は本採用が確定していない状態と見なされ、多くの金融機関で審査が通りにくくなります。試用期間は3か月〜6か月が一般的ですので、本採用が確定してから申し込むのが原則です。

 関連記事:試用期間の注意点〜本採用されないケースと対処法

6. 住宅ローン返済中に転職する場合

 すでに融資が実行され、返済が始まっている場合はどうでしょうか。結論として、返済中の転職に法的な制限はありません。金融機関の承諾を得る必要はなく、転職を理由に一括返済を求められることも通常はありません。

6.1 やるべきは勤務先変更の届出

 多くの住宅ローン契約には、勤務先や住所が変わった場合に届け出る義務が定められています。放置しても返済そのものに直接の影響はありませんが、次の場面で不都合が生じます。

  • 金利の優遇条件:給与振込口座の指定が優遇条件になっている場合、振込先が変わると優遇幅が縮小することがある
  • 連絡の不達:重要な通知が届かず、手続きの遅れにつながる
  • 借り換えや繰上返済の手続き:登録情報と実態が食い違うと余計な確認作業が発生する

 転職したら、給与振込口座の指定条件をまず確認してください。金利の優遇幅が0.1%縮小するだけでも、借入3,000万円・35年返済なら総返済額でおよそ50万円以上の差になります。転職先の給与振込口座を指定できるかどうか、入社手続きの段階で確認しておくと安心です。

6.2 年収が下がる転職なら返済計画を見直す

 転職で年収が下がる場合は、返済負担率を再計算しておきましょう。返済負担率とは、年収に占める年間返済額の割合です。目安として、年収400万円未満なら30%以下、400万円以上なら35%以下が一般的な上限とされています。

 たとえば年間返済額120万円の方が年収500万円から400万円に下がると、負担率は24%から30%に上昇します。上限内には収まりますが、生活の余裕は確実に減ります。ボーナス返済を設定している場合は、転職先の賞与制度もあわせて確認してください。賞与が年2回から年1回に変わる、あるいは業績連動で変動幅が大きいといった違いは、返済計画に直結します。

6.3 転職直後の借り換えは1年待つ

 借り換えは新規の住宅ローン審査と同じ扱いになります。転職直後は審査に通りにくいため、金利が下がる局面であっても勤続1年を超えてから動くほうが確実です。

7. 転職と住宅ローンを両立させる逆算スケジュール

 最後に、実際の進め方をスケジュールに落とし込みます。「転職を先にする(B型)」場合のモデルケースです。

時期 やること
転職前 購入予定時期を確定する。1年以内ならA型(転職を後ろにずらす)を検討。カードローン・リボ払い・端末の分割払いを整理しておく
入社〜3か月 労働条件通知書・雇用契約書を保管。給与明細を毎月ファイリング。試用期間の満了日を確認
6か月 頭金の積み増しを進める。物件探しは開始してよいが、売買契約は急がない
12か月(年末調整後) 新しい勤務先の源泉徴収票を1年分取得。事前審査を申し込む
審査中〜融資実行 転職・退職・新規借入・クレジットカードの追加発行をしない

7.1 審査前に必ず整理しておく4つの借入

 住宅ローンの審査では、住宅ローン以外の借入も返済負担率に合算されます。見落とされやすいのは次の4つです。

  • 自動車ローン(残債がそのまま負担率に加算される)
  • クレジットカードのリボ払い・分割払い
  • スマートフォン端末の分割払い(信用情報に割賦契約として記録される)
  • 使っていないカードローンの契約枠(借りていなくても枠が負債と見なされることがある)

 これらは審査の3〜6か月前までに完済・解約しておくのが理想です。転職の準備期間は、こうした整理を進める良いタイミングでもあります。

 関連記事:転職に有利な時期はいつ?月別の求人数と狙い目

8. まとめ|転職と住宅ローンのチェックリスト

 この記事では、転職が住宅ローン審査に与える影響と、不利にならないためのタイミングを解説しました。要点を確認しましょう。

  • 審査中・融資実行前の転職は最も危険。否決や減額のリスクがある
  • 転職が決まったら隠さず金融機関に相談する
  • 転職後に組むなら勤続1年(源泉徴収票1年分)が安全圏
  • 【フラット35】は勤続年数の要件がなく、転職直後でも検討の余地がある
  • 同業種・年収アップ・正社員継続の転職は不利になりにくい
  • 業務委託・フリーランスへの転向は、確定申告2〜3年分が必要になる
  • 試用期間中の申し込みは避け、本採用の確定を待つ
  • 返済中の転職は自由。勤務先変更の届出と給与振込口座の優遇条件を確認する
  • 審査前に自動車ローン・リボ払い・端末の分割払いを整理しておく

 住宅ローンを理由に転職をあきらめる必要はありません。大切なのは、購入時期と転職時期の順番を意識して動くことです。購入が1年以内に迫っているなら融資実行を先に、そうでなければ転職を先にして1年の実績を作る——この判断ができれば、どちらも手放さずに進められます。

 『転職どうでしょう』では、転職に関する全般的なサポートをおこなっております。「住宅購入を考えているが転職しても大丈夫か」「年収を下げずに転職したい」など、転職に関するお悩みがありましたら、お気軽に転職相談フォームからご相談ください。

 なお、住宅ローンの審査基準は金融機関ごとに異なり、同じ金融機関でも商品や時期によって変わります。具体的な借入の可否については、必ず取引を予定している金融機関にご確認ください。